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微小空間の湿度測定/発生技術
分流式精密湿度発生における湿度制御概念からの脱却
最近、通常環境の温湿度雰囲気だけでなく、低温低湿ならびに高温高湿の環境における温湿度測定の要求が高まっています。測定にはいくつかの方法がありますが、より高精度を長期に渡り維持する方法は技術的に難しくたくさんの課題があります。測定者はさまざまなセンサの特長・測定原理を知った上で、最も適した測定原理を持つ水分センサを選択することが重要となってきています。
走査型プローブ顕微鏡の温湿度制御に関しては、制御空間が非常に微小な為多くの課題があります。さらに将来的にはより高温雰囲気、高湿度雰囲気の要求がされています。このレポートではその具体的な事例を延べ、ご提案したいと思います。
測定方法の原理及び種類
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高分子湿度センサによる測定方法
高分子湿度センサーは、電気的特性の変化を湿度として数値化しています。その為に電気式湿度センサとも呼ばれています。高分子を材質として利用した電気式湿度センサーには、湿度の感知方式の違いにより、以下のように大きく分けて2種類のものがあります。
- 抵抗変化型湿度センサー
- 静電容量変化型湿度センサー
共に湿分を吸湿、脱湿する感湿材を使用し、電極間を橋渡ししている構造になっています。
- 抵抗変化型湿度センサー
- 静電容量変化型湿度センサー
抵抗変化型湿度センサは室内等通常雰囲気の測定に優れています。構造が簡単で、大量生産ができ、また、比較的安価であるという特徴を持っています。静電容量式湿度センサには比較的応答速度が早い、低湿度測定に優れる。低温度、高温度での使用ができるなどの特徴があります。しかしながら、湿度センサの表面処理技術の向上により、耐久性が増した反面、湿度センサメーカーにより特徴も変わり、応答性やヒステリシス等の問題も浮上しています。また、電気回路のデジタル化により、メーカーと同等の校正方法を研究者に供給するなど、センサ原理とは違う利点が重要視される場合も生じています。
湿度センサの特徴を語る上で重要な点に、センサ形状も挙げられます。
神栄(株)製である抵抗変化型湿度センサは右図の2種類の形状があり、壁内測定や靴内、衣服内測定むけに開発されたセンサで2.8mmの薄さが特徴となっています。
小型の径寸法を重要視したセンサでは6mmの太さが特徴になります。熱容量が小さい為、温度応答性に優れ空間の雰囲気測定用に使われます。
両センサとも抵抗変化型湿度センサであり、電気的にノイズに強いという特性のため、ケーブル自体に柔軟性のある材質が使用できるのもメリットとなります。
右図の静電容量変化型であるロトロニック社製小型センサに関していえば、センサチップ自体が柔軟性を持っていることが挙げられます。センサチップの形状を筒状に丸めることにより、センサの径を4mmにまで細くする事が出来ます。
静電容量変化型であるロトロニック社製小型センサ
しかしながら静電容量変化型湿度センサー型の為、ノイズの影響を受けやすく。センサケーブルに関しては対策上、柔軟性を犠牲にしたケーブルが採用されています。
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鏡面冷却式露点計、酸化アルミ膜静電容量センサ(水分計)による測定方法
湿度センサと違う原理で、水分を測る代表的な機器として2種類の測定器があります。ひとつは鏡面冷却式露点計と、もうひとつは酸化アルミ膜静電容量センサ、一般的に水分計と呼ばれているものです。鏡面冷却式露点計は現在、湿度の標準器として認知され、精度が高く、優れた安定性を持っています。酸化アルミ膜静電容量センサによる水分計は低湿(低露点20℃DP~-110℃DP)の測定が可能で、半導体・ドライルームなどの工業計器として使用されています。
鏡面冷却式露点計の測定原理を述べたいと思います。鏡面冷却式とは、測定したい気体を検出部へ連続サンプリングし、内蔵のミラー面上を通過させます。ミラー下部にモールドされた電子冷却モジュールでミラー面を冷却し、ミラー面に気体中の水分を強制的に結露させる方式です。そして、ミラー面にはLED光が照射されており、その反射光を受光素子で捕らえ、結露による反射光量の減衰を検知します。露の発生(結露)および露量を確認し、最適な結露状態を維持するよう常時、電子冷却モジュールを制御します。ミラーの下部にはもうひとつ、PT温度センサがモールドされており、その温度抵抗出力が露点温度として出力されます。(1次検出)。
この構造を生かす事で、最近ではミラー及び検出部を耐腐食性の材質にし、SOX、NOXなど腐食性ガス中での水分計測も可能になっています。
酸化アルミ膜静電容量センサの原理は、静電容量式湿度センサーとほぼ同じ原理となります。感湿膜として酸化アルミ膜を使用しています。その酸化アルミニウムの表面には規則正しい間隔で多数の気孔が分布しています。さらにこの表面に金が蒸着され、ベース部(アルミ基板)と金の薄膜を両極としたインピーダンス素子で構成されます。この検出部を雰囲気にさらす事により、水蒸気圧に比例した数の水の分子が酸化アルミニウムの細孔に浸透していきます。細孔に入った水の分子は細孔壁に吸着、速やかに平衡状態になり細孔壁の電気的抵抗値を変えます。したがって水の水蒸気圧の変化をインピーダンス変化として検出する事が出来ます。
雰囲気における測定方法の選択
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測定方法の原理及び種類にて説明した湿度及び露点センサの使用可能範囲及び露点温度測定範囲を下記に示します。
最近の方向として、鏡面冷却式露点計の普及により、相対湿度から露点温度などの絶対値の単位を用いるケースが増えています。その理由として高温度域の測定が可能になった為、相対湿度では表現しにくい事。低湿度の分解能が露点温度による表現の方が高い事などに挙げられます。実際の使用面で、各種方式の選択にはいくつかのポイントが上げられます。
一般的な抵抗変化型湿度センサ、静電容量変化型湿度センサは常温にて校正されるのが普通です。高温、高露点雰囲気の測定では誤差が増大してしまう為、精度を追求する為には鏡面冷却式露点計が使用されます。しかしながら、露点計も一般には測定上限温度が75℃DP付近とされ、それ以上の温度域での計測をしたい場合は、高温度域までセンサの使用が可能な静電容量変化型湿度センサが採用されています。その場合、露点計を基準にした高温度域で校正するシステムを推奨し精度の維持を行います。さらに、静電容量変化型湿度センサは結露状態から計測状態に復帰するまで、長時間に及ぶことがあり注意を要します。低湿度域、低露点温度域の測定には酸化アルミ膜静電容量センサと鏡面冷却式露点計が使用されます。精度面及び経年変化が少ない事では鏡面冷却式露点計が優れています。酸化アルミ膜静電容量センサは定常的に低露点温度計測が行われた場合、優れた特性を示します。ただし、通常雰囲気から低露点温度計測を実施する場合など、酸化アルミ膜静電容量センサは通常雰囲気下ではセンサ劣化を招く為、あまり使用されていません。
鏡面冷却式露点計 DewStarシリーズ
湿度供給装置による微小空間制御の実例及び発生装置の解説
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分流式湿度供給装置を使用した発生の原理
分流式湿度供給装置は完全に乾燥した空気(0%rh)を2つの流れに分け、一方は飽和槽を通して飽和空気(100%rh)とし、他方をそのまま(0%rh)で混合させ試験槽に供給します。その時の飽和空気と乾き空気の流量比により、試験槽に一定の相対湿度の気体をつくる。JIS規格に基づいた極めて高精度な発生方式です。
さらに湿度供給装置は外部に空気を供給する為、外部試験槽・試験室を温度制御する事により2点温度法の発生方法も利用する事が可能になります。
2点温度法とは、飽和空気槽と試験室の2つの部分から成り、飽和空気発生槽にて露点温度を精密に制御した飽和空気(100%rh)を作り出し、試験室内に送り込みます。そして、外部試験室内の温度と飽和槽の温度を自由にコントロールすることにより、あらゆる湿度を再現することが可能です。
分流法と2温度法を複合した2温度分流法により微小空間の湿度制御が可能になります。
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微小空間の湿度制御とは
微小空間は通常の恒温恒湿槽レベルの空間から、さらに小さい数センチ四方の空間を想定しています。通常の湿度制御の方式は、湿度センサ等の信号を調節計にて受け、その制御信号から加湿部のヒーターなどをコントロールします。その為、空間容量が小さければ小さいほど安定まで時間がかかりオーバーシュート(ハンチング)を繰り返します。
逆にそれを防止する為に加湿能力を小さくすれば、温度・湿度変化などの外乱に対し対応能力が落ちてしまいます。この方式では走査型プローブ顕微鏡の湿度制御には向きません。
次に分流式湿度供給装置を使用した場合、空気供給源は基本的に外部チャンバー内に直接目的の空気を送ります。
したがって、制御は行わない為、設定値に対し近づく湿度トレンドを示します。応答性は湿度供給装置の発生流量と外部チャンバーの容量にて決まります。チャンバー寸法が10センチ四方の場合、十秒単位で安定へと向かいます。さらに重要なのは顕微鏡系で不可欠な結露が防げます。
最近の考え方として、湿度供給装置の発生精度は湿度センサの計測精度と同等以上となり、湿度センサのモニタリングを行わないケースも出ています。
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微小空間制御の実例
湿度により影響のでる紙、繊維等の引張り試験の実例を示します。引張り試験器で温度湿度の影響を受けやすい試験資料等を目的の温湿度環境に置き実験する場合、特殊な治具により試験資料のみの加温加湿を行なう必要があります。これは引張り試験器に設けられたロードセルの使用温度域に制限があり、試験機自体を恒温恒湿槽内に設置できない為です。湿度供給装置の流量計にマスフローメータを使用した為、長時間にわたる傾斜制御を含めたプログラム運転が可能になります。このように湿度供給装置は微小空間に優れた制御を行なうことができます。
注意点として湿度供給装置から供給された空気(ガス)では流量が小さい為、試験資料を入れる治具の温度制御は不可能となります。かならず、冶具の温度制御を行なうヒーターなどを組みこむ必要があります。
湿度供給装置SRG-1M/AS による実例
おわりに
湿度センサや発生装置の技術的な進歩は、ほとんど特殊環境計測からのノウハウで培われてきました。
弊社もスイス、ロトロニック社製温湿度機器を扱い、幅広い温度域での湿度計測を経験することによりより難易度の高い測定技術を得ることが出来ました。現在、最新市場では湿度の重要性が高まり、燃料電池やVOCガス測定でも湿度計測は見直されています。さらに、今後、長期にわたり経年変化の少ない湿度計の要望から鏡面冷却式露点計の国産化も進めております。第一科学も産業界の湿度計測の一助になれるよう、研究開発を進めております。
【参考文献】
☆ 湿度のあれこれ (株)第一科学
☆ センサ技術資料 日本パナメトリクス社